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井上ひさし先生へ

手足が冷たくなったまま、さびしさをどうすることもできずにいます。
井上ひさし先生が逝ってしまった。
実感はまだ沸きません。
桜の一番きれいな季節。
鎌倉の山にも美しい春がおとずれていて
お家に帰ってこられた先生は、さぞ嬉しく、安心なさったことでしょう。

先生や作品に触れて
同じ時間を過ごすことができたのは、数えてみたら、ほんの二年。
ほんとうはもっとお会いしたかった。
お会いできると思っていました。
最後の弟子、になるには、まだ早い、と正直思っていました。

さみしくてたまらないです。

先生に個人研修生として採用していただくきっかけとなったのは
『カシオペア』の初期稿です。
2008年6月、サザンシアターに『父と暮せば』を観にいったそのロビーで
先生は開演前に物販用の本に、こっそりと、でもせっせと、サインをしていらした。
春先に『カシオペア』を提出した私のことを覚えていてくださいました。
「あれから考えていたんだけれどね……、」
そう語りだしてくださったのは、『カシオペア』の書き直しに関するアドバイス。
本当に思いがけないことでした。
覚えていてくださったこと。考えていてくださったこと。
いただいたアドバイス。
胸が熱くなって
サザンシアターの座席について、開演のために客電が暗くなるまで
たった今いただいた言葉を、忘れないようノートに書き留めていました。

「いい芝居を書くと、次の芝居が浮かんできますから。
 いい芝居が書けないと次へはいけない。
 ぽんと放り出しておくと悪くなっていってしまいます。
 だから、いい芝居が書けた、と思えるまで書いていくんですよ」

その時先生が仰られていたこと。

今向かい合っている作品に全力で取り組んでいけば、次が浮かんでくるんだよ。
何も心配することはないんだよ。

私は、先生からいただいたアドバイスに応える形で再び原稿に向かいました。
そして出来上がったのが、今の『カシオペア』です。

先生が逝かれたこの春の日に、期せずして
このときの原点となった作品にリーディングという形で再び向かい合っていたこと。
目には見えない糸、
なにかひとつの大きな音楽のようなものを感じずにはいられません。

二年という短い時間に、本当にたくさんのものをいただきました。
先生の本や舞台を通して、これからも私たちは
抱えきれないほど多くのものをいただいていきます。
井上ひさしという時代を代表する作家の大きさは
私が言葉にするまでもなく。

私と先生のつながりは、ほんとうにささやかなものでしかないかもしれません。
でも私には、それは人生を変える出会いでした。
私は、私が出会った先生の跡を、自分なりにもがきながら
恥ずかしくないよう歩いていくしかないんだろうと思います。

力が足りなくて、気が遠くなります。
けれど、先生に触れて、感化された心がある。
この心がある以上、いい加減には書けない。
一作一作を真剣に、丁寧に書いていきます。
それだけはきっとお約束できます。


ありがとうございます。先生。


これは、私の中にある精一杯の「本当の意味」を込めた言葉です。


鎌倉でお会いしたときに、
先生が最後にお話しくださったことば。
ノートの一番最後に記していた言葉を、
ここに書き留めておきます。

それはまるで今、私たちにお話しくださっているかのよう。


「今日一日を楽しく、そして必死に生きること。
 その積み重ねが、一生を作るんです。
 あなた自身の力で、心をよい方向へ向かわせなさい。
 
 そして、全世界を相手に、いい作品を書きなさい。」


先生。
ありがとうございます。心から。
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すぎ

長田さんが戯曲セミナー同級生でいて下さったことで、井上先生に少し近づけたような気持ちを持てたことに感謝します。
書いて下さってありがとうございます。
by すぎ (2010-04-17 21:40) 

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